B、多くは維持期で留まる例

 

1、腰部脊柱管狭窄症:

 

問診・及び検査

 

腰や足の痛みがあることは、ヘルニアに似ていますが、ヘルニアにはない特徴があります。それはじっとしていれば痛みはありませんが、立ち続け・歩行などで足の症状が強くなり、しかし、立ち止まって座ると、2.3分で回復する間歇跛行と言わ

 

 

 

経の管(脊柱管)が狭くなっていることで、証明できます。

 

治療方針:急性期:痛みが強く歩くのもつらい時期

 

この病気の場合、手術を選ぶこともあります。歩行距離が短い、足裏が痺れて歩き

 

にくいなど、日常生活が大幅に制限される場合などです。しかし、最初から手術は

 

選択しません。痛みは、多くの場合、ブロック、薬、理学療法などでよくなってき

 

ます。当初は椅子から立ち上がるだけで、モモの裏まで痛みが走ることもあります

 

が、やはり、改善してきます。理学療法では、少し腰を丸くする姿勢を指導し、腹

 

筋訓練、エルゴ訓練をします。腰を反る姿勢は勧められません。高齢者に多いた

 

め、手術をためらう人も大勢いますが、手術は比較的簡単です。

 

回復前期:

 

痛みが減り、痺れと間歇跛行が主になれば、回復前期と考えます。痺れはなかなか

 

治らないので、それが耐えられなければ、または、足の力が弱ってくると、手術も

 

考慮します。足底にしびれ・間歇跛行・腰の痛みなどあるが、仕事が可能であれば、

 

手術は急がなくても大丈夫です。薬や注射も時にしますが、主にリハビリで、腰が

 

少し丸くなる姿勢の獲得を目指します。腹筋アップ、自転車エルゴなどが重要です。

 

回復後期:

 

足に痛みは無くなりましたが、痺れが残存する人も多くいます。このしびれはなか

 

なか治らないのですが、あまり生活の支障にはならないようです。また、たまに筋

 

肉の力がかなり落ちてしまった人もいますが、長く続くと手術でも回復は困難で

 

す。それ以上の進行予防のため、運動訓練を継続します。

 

治癒期・維持期

 

  痛みもしびれも、間歇跛行も無くなれば治癒です。この病気を多くの人で長く観察

 

すると、1/3が治癒、1/3がなかなか治らない(しびれ たまに筋萎縮)、1/3が手

 

術されているようです。つまり1/3はな何らかの症状を残しながらの、病気と上手

 

く付き合っておられるようです。手術して、間歇跛行は良くなっても、痺れを残す

 

人も多くいます。つまり維持期から抜け出せない人も多くいるということです。

 

 

 

※脊柱管狭窄症雑談:私はこの病気をテーマに博士論文を書きました。論文を読むと若い頃の情熱が今でもよみがえります。高齢者の多くなった現在、ヘルニアに変わり、この病気で手術する割合がとても多くなりました。しかし、田舎で暮らしていると、お年寄りの多くはあまり間歇跛行を苦にされていないようです。したがって、自転車に乗る、自転車を押す、しばらく杖を使用するなどの生活指導をする機会も増えた気がします。

 

 

 2、変形性膝関節症:関節の軟骨がすり減って、関節の痛みが出る病気

 

   問診・検査:膝の痛みで、整形外科には多くの患者さんが来られます。軽い症状では、椅子に座っていて立ち上がり、歩き初めなど、動作の初めに痛みが出て、歩いていると、次第に痛みは無くなる(SPスターティングペイン)人もいますし、重症では、痛みのために歩けない人もいます。レントゲンで、関節の軟骨の摩耗(関節の隙間が狭くなる)を証明します。

 

   急性期:痛みのために歩くことがつらく、ヒコズル様に歩きます(跛行)。関節が腫れ、水が溜まっていたり(関節水腫)、動きが悪くなっていたり(可動域制限)、変形していたり(内反膝・O脚・X脚)します。医師は、関節の中にステロイド注射をして炎症を止めます。水を抜くこともあります。そのほか炎症止めの薬、湿布なども有効です。また痛みがあっても、たいていの場合リハビリで、筋力増強訓練、可動域回復訓練、電気治療などします。

 

   回復前期:歩けないくらいの痛みは軽くなり、ひどい痛みでなければ、初診の人でも回復前期として治療を始める場合もあります。この時期、それほど強くないので、ヒアルロン酸を5週連続で注射します。この間も、リハビリで、筋力増強訓練、可動域回復訓練、電気治療などしますが、膝の場合、中殿筋も弱っていることも多く、この筋のアップ、可動域回復のため、自転車エルゴなどの運動も追加します。患者さんには、少し嫌いな注射も我慢し、運動を継続するよう頑張っていただきます。

 

   回復後期:痛みは、立ちしゃがみ、方向転換などの時、多少出ますが、平地歩行など、たいていの日常生活は普通にできます。痛みが続けば、ヒアルロン酸注射を2から4週に1回、時に痛みが強くなれば、ステロイドの関節注射、その他痛み止めの薬を、頓服程度につかっていただきます。そして、膝の筋力アップ、中殿筋アップ、可動域訓練を積極的に家庭でも続けて頂きます。足底板を使っていただくこともあります。肥満があれば、食事療法も考慮していただきます。

 

   治癒期・維持期:若い人なら正座も可能になり、痛みは無くなり治癒とします。しかし高齢の人では、すでに関節軟骨の摩耗が多かれ少なかれ発生しています。これは再発の芽(危険因子)です。維持期として、リハビリの回数は減しても、続けて頂くようになるかも知れません。

 

 

 

 ※膝は曲がらないほうが困るか、伸びないほうが困るか:膝の痛みの他に、曲がりが悪い、正座できないと言ってこられる患者さんもいます。もし、この膝が完全に伸びないようであれば、リハビリではまず、曲げる訓練より、完全伸展ができるように頑張ったほうが良いと思います。

 

 ※膝に水が溜まる:痛みがあって水が20㏄以上も溜まるなら、「水を抜くと癖になる」と心配される患者さんもいますが、水を抜いて注射することを勧めます。痛みは無くなっても、水が長い間、溜まっていることがあります。ヒアルロン酸の注射をすることもありますが、四頭筋訓練、膝裏マッサージなどのリハビリが良いと思っています。

 

 ※膝の痛みの原因:中高年では、多かれ少なかれ軟骨の摩耗が関係していますが、若い人、学童・生徒では、半月板軟骨が割れている場合があり、手術の対象にもなります。

 

 ※急に、足を付けない位の痛みが出た場合、特発性骨壊死という病気の場合もあります。早期にはMRIで診断することになりますが、私の経験では、最初は松葉杖などで、膝をかばわなければいけないほど痛くても、次第に落ち着き、足底板なども使用し、手術しないでも維持期に移行できると思っています。レントゲンで見るより、病気の性格は良いと思っています。

 

 ※変形性膝関節症で痛みが長く続けば、人工膝関節手術を勧めます。手術前の変形も治り、痛みもほとんどなくなります。しかし、可動域は、手術前に悪ければ、あまり期待できません。

 

 

 

 ※他の関節軟骨の摩耗する病気について:

 

     1)変形性股関節症:膝と基本的には変わりません。手術も有効です。

 

     2)変形性足関節症:捻挫を繰り返しているうちに、高齢になり、痛みが出ることがあります。膝と基本的に変わりませんが、もし手術を選ぶなら現在のところ、人工関節より、関節固定を勧めます。

 

     3)変形性肩関節症:肩を動かす腱の断裂に続いて軟骨も摩耗してくることがあります。人工関節手術もありますが、痛みが強く夜間も眠れないなどの症状があればステロイド関節内注射をし、肩を冷やさないように用心しておれば、多くの場合、日常生活には不自由なくなってきます

 

     4)変形性肘関節症:肘の屈曲は120度あれば日常生活に不自由ないようです。しかし、しばしば、小指の痺れなども出てきます。その時は、手術も考えたほうがよいでしよう。

 

     5)へバーデン結節:手の指の先の関節が次々に腫れて変形してくる病気があります。遺伝も関係しているようです。あまり酷使しないでいると痛みはひどくはなりません。痛い時に痛み止めを飲む程度で対処できます。指の中の関節も変形してくるとブシャール結節と言います。やはり酷使を避けるのが一番です。